シリーズ Citizens Adviceを読み解く〈イギリスで働くあなたへ:“休む権利”と“職場で守られるルール”を知ろう〉

イギリスで働く 休暇の条件 01

※2025年9月25日現在の情報です。
※この記事で参照しているCitizens Adviceの情報は、主にイングランドの法律に基づいています。北アイルランドやスコットランドウェールズでは一部のルールが異なる場合がありますので、各地域のCitizens Adviceで確認するようにしてください。


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👉前回のおさらい
▶︎シリーズ Citizens Adviceを読み解く〈イギリスで働くあなたへ:Citizens Adviceで知る“自分の権利”〉


突然ですが、イギリスでの生活や仕事、楽しんでいますか?

毎日頑張っているからこそ、ふとした瞬間に「これでいいのかな?」と疑問に思ったり、不安を感じることはありませんか?「有給って、本当はどれくらいもらえるんだろう?」「病気で休むとき、どうすればいいの?」「職場で嫌なことを言われたけど、これって差別なのかな…?」

そんな疑問や不安、実はCitizens Advice (以下、CA) に答えがあります。

多くの人が「知らなかった」と見過ごしがちな“働くあなたを守る権利”について、今回は『休む権利』と、『職場で守られるべきルール』に焦点を当てて、一緒に読み解いていきましょう。

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この記事でわかること

⬇️ 1、休む権利について

  ⬇️ 年次有給休暇(Annual Leave)のルール
  ⬇️ 病気のときの休み(Sick Leave)のルール
  ⬇️ 妊娠・育児に関する休暇(Maternity Leave)のルール

💬 補足:この後に紹介する休暇制度は、あなたの雇用形態(Employee / Worker / Self-employed)によって適用範囲が異なります。先にご自身の立場を確認しておくと、理解しやすくなります。
詳細は前回の記事(▶︎Citizens Adviceで知る“自分の権利”)をご覧ください。


⬇️ 2、差別から身を守るための法律と具体的な対処法



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▶︎3つの『休む権利』。日本とは違う有給・病欠・育児休暇

日本の有給休暇は、雇用されてから6ヶ月間継続勤務し、その間の出勤率が8割以上であれば、10日間の有給休暇が取得できます。
しかし、どうやらイギリスでは、少し違った有給休暇のルールがあるようです。
そこで、日本とは異なる3つの「休む権利」について見てみることにします。

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🔹1. 年次有給休暇(Annual Leave)


イギリスで働くあなたに知ってほしいのは、Employee(従業員)Worker(労働者) であれば、有給休暇は法律で守られた権利だということです。

日本では勤続年数によって有給休暇が増えていきますが、イギリスではそうではありません。
勤め始めたその日から有給休暇の権利は発生し、週の勤務日数に応じて付与日数が決まるのが特徴です。

例えば、週5日勤務のフルタイム社員なら、法律で保障される年間の有給休暇は、最低28日間です。

この28日間には、Bank Holiday(国民の祝日) も含まれるのが一般的です。
2025年のイングランドにおけるバンクホリデーは8日でした。
つまり、有給休暇の権利から8日間の祝日を差し引くと、あなたが自由に取得できる休暇は20日間となります。

一方で、もしバンクホリデーに出勤した場合は、その分を別の日に休暇として取得できるのが原則です。

なお、法定の28日を超えて企業が独自の制度で有給休暇を付与している場合、28日目までは「法定の権利」、それ以上は「契約上の権利」となります。
雇用形態によって、もらえる有給休暇の日数は変わります。
Citizens Adviceのウェブサイトでは、下記の表のような勤務日数ごとに決められた年間の有給休暇日数が掲載されています。

週に働く日数年間の有給休暇日数
5日以上28日
4日22.4日
3日16.8日
2日11.2日
1日5.6日



🕒 勤続1年未満の人はどうなる?
勤め始めてから1年間は、勤務月ごとに取得できる休暇日数が積み立てられていきます。つまり、1ヶ月勤務するごとに、年間有給休暇の12分の1が利用できるようになります。

Self-employed(フリーランス)は日本と同じように、有給休暇を取得する権利はありませんので、その点は注意が必要です。

イギリスで働く 休暇の条件 02

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🔹2. 病気のときの休み(Sick Leave and Pay)


体調を崩し、止むを得ず仕事を休まなければならないことがあります。
そのとき、どれくらい休めて、どの程度お金が支給されるのでしょうか。
 
病気で仕事を休む場合、Statutory Sick Pay (SSP) という社会保障給付を受け取れる可能性があります。
病気で休み始めた最初の 3 日間はSSPの支給対象外ですが、その後は最長 28 週間、週あたり 118.75 ポンドを受け取ることができます。(※2025年9月時点での金額)
※SSPの支給額は年度ごとに見直されるため、最新情報は政府の公式サイトでご確認ください。


■Statutory Sick Pay (SSP) の主な受給資格
SSPはEmployee(従業員)が、以下の条件をすべて満たしている場合に受け取ることができます。
・雇用主のもとで働いている
・病気を理由に4日以上連続で仕事を休む(休日含む)
👉 ただし、2026年以降は法改正により、初日からSSPが支給される予定です!(ACAS:Employment Rights Bill より)
・税引き前の週平均収入が125ポンド以上

■知っておくといい条件
・パートタイム、派遣、ゼロアワー契約などのWorker(労働者)であっても、雇用主が給与から税金と国民保険料を差し引いている、または週平均125ポンド以上の収入がある場合は、SSPを受け取れる可能性があります。ただし、雇用形態や契約内容によって異なるため、対象となるかどうかは個別の状況により判断されます。
・SSPの受給資格がない場合でも、他のサポート制度を利用できる可能性があります。
・産休中は通常SSPを受け取ることができません。
・ストライキに入る前に病気になった場合はSSPを受け取れますが、ストライキ中に病気になった場合は対象外です。ただし、その場合はEmployment and Support Allowance(ESA)という手当を申請できることがあります。





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🔹3. 妊娠・育児に関する休暇(Maternity / Paternity / Parental Leave)


イギリスには、働く親を支えるための充実した休暇制度があります。
ここでは、主に「出産する人(母親)」に向けた産休(Maternity Leave)と、それに伴う手当金(Statutory Maternity Pay)を中心に、あなたの雇用形態別に何が受け取れるかを整理してみましょう。


雇用契約があるすべての従業員は、次のような権利があります:

●出産手当金(Statutory Maternity Pay, SMP)
一定の勤務期間・収入要件を満たせば、最長39週間、給与の90%または定額が支給されます。

産休(Statutory Maternity Leave)
出産予定日の11週間前から、最長52週間の産休が取得できます。
これは“仕事を休むだけ”であり、雇用主にはあなたの雇用を継続する法的義務があります。


派遣やゼロアワー契約など、雇用契約を結んでいない人は、法定の産休やSMPの対象外です。
ただし、条件を満たせば、自己申告により政府から**Maternity Allowance(MA)**を受け取れる可能性があります。


フリーランスには、法定の産休やSMP(出産手当金)は適用されません。
ただし、Maternity Allowance(MA)を自己申請で受け取れる可能性があります。
支給額や期間は勤務状況などにより異なります。



💡補足:パートナーの育児休暇(Paternity / Shared Parental Leave)

今回は主に「出産する人」向けの情報ですが、パートナーにも育児休暇の権利があります。
こちらは別途「Paternity Leave」「Shared Parental Leave」として規定されています。

■育児休暇は、出産予定日前後に取得するのが一般的です。スムーズな取得のためにも、出産予定日が決まったら、なるべく早めに雇用主へ連絡し、ご自身での手続きを進めておきましょう。




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📌 まとめ:イギリスでの「休む権利」は、あなたの立場によって大きく異なる

日本とは違い、イギリスでは雇用初日から休暇の権利が発生することや、Worker や Self-employed の人にも一部サポートが用意されている点が特徴です。
自分の働き方に合った「休む権利」を理解し、体調やライフイベントに応じて安心して休める環境をつくることが大切ですね。


次は、「働く環境」でよくある不安――差別や嫌がらせなどの問題について見ていきましょう。



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イギリスで働く 差別を受けたら

▶︎差別は許されない問題。あなたの権利は法で守られる


世界中には残念ながら様々な差別が行われています。
日本で差別を経験したことがなかった人でも、イギリスでは思いがけず“差別される側”になってしまうことがあります。
それは、差別が無意識の偏見や無知から生じることもあるからです。

いかなる差別も経験すると本当に辛いですが、度を過ぎた行為に対して泣き寝入りする必要はなく、法のもと正しく対処することは可能です。


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🔹平等法(Equality Act 2010)と守られる権利

この差別を禁止している法律が「平等法(Equality Act 2010)」です。
雇用主は、採用から解雇に至るまで、あらゆる場面であなたを公正に扱わなければなりません。

2010年平等法第 5 条から第 18 条で規定されている保護特性は次のとおりです。

・年齢
・障がいのある人
・性別適合
・結婚とシビルパートナーシップ
・妊娠と出産
・人種・民族
・宗教または信仰
・性別
・性的指向


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🔹具体的な対処法:我慢しない、行動を起こす


同僚からの差別であっても、それが職場内で起きたものであれば、雇用主に責任が問われる可能性があります。これはvicarious liabilityと呼ばれ、職場環境を守る義務が雇用主にもあるという考え方です。

「見て見ぬ振り」をすること自体、法的責任を問われるリスクがあるということです。
我慢せず、まずは、雇用主や責任者に相談してみることから始めてみましょう。

👉  体験談から:
かなり昔の話ですが、私の知人が職場で人種差別的な扱いを受けました。
当時、この法律も知らず、どうすることが一番いいのか悩んだ末に警察に相談に行ったそうです。
その時に警察から言われたのが、「イギリスは人種差別に対してとても厳しく取り締まっている」こと。
そして、その際「詳細な記録を残すように」とアドバイスされました。
当時はスマートフォン普及前で記録をつけるというアドバイスでしたが、現在ではより効果的な方法があります。



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🔹現代の対処法:記録があなたの証拠になる


差別的な言動があったら、日時、場所、言われた内容、目撃者をできる限り詳細に記録しましょう。
スマートフォンを使って、以下のような方法で証拠を残すことを強くおすすめします。

  • 録音:相手の言動を録音する。(※ただし、相手の承諾を得ずに録音することは違法となる可能性があるので、慎重に行う必要があります。)
  • 写真:差別的な張り紙や物品など、証拠となるものを撮影する。
  • メモ:すぐにメモを取り、誰に、何を、いつ、どこで言われたかを記録する。

CAのサイトには、苦情の申し立てや法的措置の取り方が順序立てて丁寧な説明が書いています。
差別を受けたと感じ、訴えたいと考えているなら法的措置には厳しい期限があるため、迅速に行動をすることが大切なようです。

▷行動の流れ 相談する→記録を残す→外部機関に報告→法的手続き



余談ですが、その警察に行った知人は、記録を書くような性格ではなく、そのうちに仕事の契約も切れ、なし崩しで終了しました。
今は元気に働いています!




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▶︎まとめ:あなたの権利を知り、行動する


今回は、働くあなたが持つ「休む権利」と「守られる権利」について見てきました。

休暇制度や病気の手当、そして人種差別から身を守る権利は、私たちが当たり前に働くために、法律で保障されている大切なものです。

疑問や不安を感じたら、一人で抱え込まずに、Citizens Adviceなど信頼できる機関に相談してみてください。

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参考WEBサイト

▶︎Citizens Advice
https://www.citizensadvice.org.uk

-「Check if you’re entitled to paid holidays」(有給休暇について)
https://www.citizensadvice.org.uk/work/holidays-and-holiday-pay/check-if-youre-entitled-to-paid-holidays/

-「Check if you can get sick pay」(病気欠勤について)
https://www.citizensadvice.org.uk/work/sick-leave-and-sick-pay/check-if-you-can-get-sick-pay/

-「Check your maternity and parental rights」(産休について)
https://www.citizensadvice.org.uk/work/maternity-and-parental-rights/check-your-maternity-and-parental-rights/

-「Check if your problem at work is discrimination」(職場での差別問題について)
https://www.citizensadvice.org.uk/work/discrimination-at-work/dealing-with-discrimination-at-work/checking-if-its-discrimination/check-if-your-problem-at-work-is-discrimination/


▶︎GOV.UK(英国政府公式サイト)
-「Statutory Sick Pay (SSP)」(病気をして欠勤した時)
https://www.gov.uk/statutory-sick-pay


▶︎ACAS(雇用に関する助言・調停機関)
-「Employment Rights Bill」(今後の雇用権利法改正について)
https://www.acas.org.uk/employment-rights-bill


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掲載日:2025年09月25日