シリーズ Citizens Adviceを読み解く〈イギリスで働くあなたへ:Citizens Adviceで知る“自分の権利”〉

イギリスで働く人を支援するカスタマーサポートの女性(ユニオンジャック)

※2025年9月11日現在の情報です。
※この記事で参照しているCitizens Adviceの情報は、主にイングランドの法律に基づいています。北アイルランドやスコットランドウェールズでは一部のルールが異なる場合がありますので、各地域のCitizens Adviceで確認するようにしてください。


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2024年、最大2年間の滞在と就労・旅行が可能な制度「Youth Mobility Scheme(YMS)」の定員が、これまでの1,500人から6,000人に大幅拡大されました。

これにより、ロンドンなどの都市部では就職活動の競争がより激しくなっているという声もあります。

さらに、やっと仕事が見つかっても、不当な扱いや労働トラブルに巻き込まれるケースも少なくありません。

そんなときに大切なのは、『自分の権利を知ること』と、『信頼できる支援機関に相談すること』。

そこで注目したいのが、イギリス全土で利用できる頼れる存在――


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◆目次

⬇️ 市民の味方「Citizens Advice」とは?

⬇️ 知っておきたい!存在する3つの雇用形態

⬇️ 雇用形態によって異なる“あなたの権利”

⬇️ 雇用契約書は必ず受け取りましょう

⬇️ 口約束だけで働くことになってしまったら

⬇️ 働く環境も法律で守られている!HSEのガイドライン

⬇️ 最後に:悩んだら相談できる場所を知っておく

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▶︎市民の味方「Citizens Advice」とは?

「Citizens Advice(旧称:Citizens Advice Bureau)」(以下、CA)は、イギリスの非営利団体で、生活や仕事に関するあらゆる悩みに無料でアドバイスを提供している公的な支援機関です。

たとえば、こんな相談ができます:

▷雇用トラブル(不当解雇、賃金未払いなど)
▷住宅問題(契約トラブル、立ち退きなど)
▷金銭問題(借金、給付金の申請など)
▷法律相談(消費者トラブル、差別など)

国籍や収入に関係なく誰でも利用できます。
相談は秘密厳守かつ無料。
イギリスに滞在するYMSビザ保持者にとっても、心強いサポート機関です。
今回はその中でも仕事に焦点をあて、「働く立場の人が知っておきたい法定権利」について、いくつかのポイントを紹介します。

オフィスで働くロンドン在住の従業員(Employee)


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▶︎ 存在する3つの雇用形態

それでは、CAのサイトを見てみましょう。
👉 『Check your employment status』(雇用形態を確認する)

イギリスには3つの雇用形態があります。
・Employee(従業員)
・Worker(労働者)
・Self-employed (フリーランス)

そして、自分の雇用形態がどのようなものかを把握し、それが自分の権利にどのような影響を与えるかを理解することが大切だとされています。

イギリス(UK)の労働法や雇用形態では、「employee(従業員)」と「worker(労働者)」は似ているようで、法律上の権利や雇用関係の深さが異なります。

具体的にどんな働き方なのか、3つのパターンを順に紹介していきます。

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👤 Employee(従業員)〈Aさんのケース〉
ロンドンのカフェで週5勤務。勤務時間も固定で、上司の指示に従って働いている。


✅ 特徴:
雇用契約:明確な雇用契約(contract of employment)あり
従属関係:雇用主に対して直接的かつ継続的な従属関係がある
給与:定期的な給与(週給・月給)
雇用形態:フルタイム・長期雇用が多い

🛡️ 権利:
・有給休暇:最低28日
・病気休暇・病気手当(SSP=Statutory Sick Pay)権利あり
・育児・産休:権利あり
・不当解雇の保護:あり(2年以上でより強固に)
・年金加入:自動加入制度あり
・差別禁止・最低賃金:保護対象

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👤 Worker(労働者)〈Bさんのケース〉
イベント時だけ呼ばれるスタッフ。勤務は不定期で、契約はあるが柔軟。


✅ 特徴:
雇用契約:契約はあるが、拘束力は弱め
従属関係:指示は受けるが、柔軟で非継続的な場合も
給与:実働時間に応じた報酬
雇用形態:パートタイム・短期契約・ゼロ時間契約など

🛡️ 権利:
・有給休暇:最低28日
・病気休暇・病気手当(SSP=Statutory Sick Pay)一部に適用
・育児・産休:原則としてEmployeeに適用されるが、一部制度はWorkerにも適用される場合あり
・不当解雇の保護:原則として対象外(ただし、雇用実態によってはEmployeeと見なされる場合も)
・年金加入:一部対象
・差別禁止・最低賃金:保護対象

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👤 Self-employed(自営業者・フリーランス)〈Cさんのケース〉
自分でネイルサロンを運営。顧客と直接契約し、働く時間も自由。


✅ 特徴:
雇用契約:なし(自分で業務契約を結ぶ)
従属関係:雇用主に従わず、業務の内容や進め方を自分で決定
給与:業務ごとの請負報酬
雇用形態:完全な独立型(個人事業主)

🛡️ 権利:
・有給休暇:原則対象外(法的な取得義務はなし)
・病気休暇・病気手当(SSP=Statutory Sick Pay)基本的に対象外(ただし一部制度で補助あり)
・育児・産休:原則対象外(一部制度により支援を受けられる場合あり)
・不当解雇の保護:なし(雇用関係ではないため)
・年金加入:自分で選択して加入(Self-employed pensionなど)
・差別禁止・最低賃金:原則として適用されないが、実態により例外もあり


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▶︎雇用形態によって異なる“あなたの権利”


💡補足ポイント

「Employee」は「Worker」の一種ですが、より強い法的保護と雇用安定性があります。
「Worker」は柔軟な働き方が可能な一方、権利面では制限があるため、契約内容の確認が重要です。
「Self-employed(自営業者・フリーランス)」は、特定の雇用主に雇われるのではなく、自分で仕事を請け負う独立した立場の働き方です。勤務時間や報酬の決定は自由ですが、有給休暇や最低賃金などの法的保護は基本的に適用されません。ただし、実際の働き方によっては、法律上「Worker」や「Employee」と見なされるケースもあり得るため注意が必要です。

雇用形態の違いは、税金の申告方法や受けられる福利厚生にも影響します。
もし、雇用状況がわからない場合は、CAサイト内に書かれているアドバイザーに相談してみましょう。

雇用形態の確認はしましょう


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▶︎雇用契約書は必ず受け取りましょう

次に、『Employment Contract (雇用契約書)』についてです。


仕事を始めるとき、まず確認すべきなのが「Employment Contract (雇用契約書)」です。

これは、あなたと雇用主の間で交わされる法的な約束であり、業務内容や報酬、勤務条件などが明記された文書です。

特にイギリスでは、雇用主は従業員に対して 「written statement(書面による明細書)」という文書を就業開始日までに提供する義務があります。
これは雇用契約の要点をまとめたもので、以前は就業開始後2か月以内とされていましたが、現在はより迅速な提供が求められています。

ただし、契約条件はこれだけではありません。

・求人広告やメールに書かれていた内容
・雇用主との口頭でのやりとり(面接時の説明など)

こういった情報も、場合によっては契約の一部と見なされることがあります。

さらに、たとえ契約書に明記されていなくても、イギリスでは法律で保障されている「statutory rights (法定権利)」というものがあり、すべての従業員・労働者に適用されます。
例えば、最低賃金の保証、週48時間を超えて働かない権利、有給休暇などがこれに当たります。


パニックになっている男性の写真

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▶︎口約束だけで働くことになってしまったら

雇用主と口頭で「これでお願いします」と合意した場合でも、その内容は雇用契約の一部として扱われることがあります。
ただし、あとから「そんな約束していない」と言われてしまうと、証明がとても難しいのが実情です。
トラブルを避けるためにも、口頭での約束はできるだけ書面にしておくことをおすすめします。

たとえば:
・ 雇用主に「書面にしてサインしてもらえますか?」とお願いする
・もし相手が書いてくれない場合は、自分でメールを送り、合意内容を簡潔にまとめておく
→「〇月〇日にお話しした件について、○○の条件で働くことで合意したと認識しています」など

✅ おすすめの構成例
 
📧 メール文例(英語)
Subject: Summary of our verbal agreement
 
Dear [Manager’s Name],
 
Thank you for our conversation on [Date].
As discussed, we agreed that I will work [days/hours] at a rate of £[rate] per hour starting from [start date].
 
Please let me know if this understanding is incorrect.
 
Best regards,
[Your Name]

📌 日本語訳(参考)
件名:口頭での合意内容についてのご確認
[マネージャー名] 様
[〇月〇日]にお話しさせていただいた件、ありがとうございました。
お話した通り、[開始日]から[勤務日・時間]で勤務し、時給£[金額]で働くことで合意したと理解しております。
もしこの認識に誤りがあればお知らせください。
よろしくお願いいたします。
[あなたの名前]


記録を残しておくことで、“言った・言わない”のトラブルを防ぎやすくなります。
こうした重要なポイントは、Citizens Adviceのサイトに詳しく掲載されています。


怒られているシェフ


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▶︎え、本当? 実はイギリスでは“働く環境”も法律で守られている!

雇用契約や労働条件だけでなく、実は職場環境そのものも、法律によって守られているのをご存じですか?
イギリスには、職場の衛生・安全・福祉に関する法的ルールが整備されており、雇用主には従業員に対して一定の環境を整える義務があります。


参考になるのが、イギリスの政府機関 「HSE(Health and Safety Executive)」 が提供する以下のガイドラインです。

1. 『Have the right workplace facilities
(職場に適切な福利施設を備えること)

このページでは、雇用主が提供すべき職場環境の最低基準が箇条書きで紹介されています。

例えば、
・トイレと洗面所(石けんやタオル、またはハンドドライヤー付き)
・飲み水
・着替えや衣類保管の場所
・休憩や食事のための場所
などがあります。

2. 『The law on workplace safety』
(職場の安全に関する法律)

こちらは、1992年に制定された「Workplace (Health, Safety and Welfare) Regulations*」という法律に基づいた規定をまとめたものです。

この法律では、職場での衛生や福祉に関して次のような内容が法的義務として定められています(一部抜粋):
・衛生的なトイレや洗面所、手洗い用の石けんとタオルなど適切な乾燥設備の設置
・安全に飲める水(free drinking water)の提供
・食事・休憩用の場所
・汚れた仕事や緊急時用のシャワー施設
・妊娠中および授乳中の従業員のための休憩スペースの提供
などがあります。


カフェで楽しく働く女の子



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▶︎最後に、

紹介しきれませんが、Citizens Adviceのサイトには、働く人の権利についてさらに詳しい情報が掲載されています。
必要なときは、まず一人で抱え込まずにCitizens Adviceのウェブサイトや最寄りの窓口に相談してみましょう。

ただ、たとえば、今のオフィスにシャワー室がなくても、飲料水が置かれていなくても、働いているあなたがハッピーであればそれでいいと思います。
そんな細かいことよりも、あなた自身が得ている「大切な経験」の方が大きいからです。
この記事は、もし、少しでも疑問や違和感を感じる働き方をしている人がいて、その人が解決策を探しているならば、その糸口になればいいなと思い書きました。




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▶︎ ワンポイント:Citizens Adviceはどんな団体?
Citizens Adviceは政府機関ではなく独立した慈善団体ですが、公共性が高く、国全体で信頼されているサポート機関です。




参考WEBサイト

▶︎Citizens Advice
https://www.citizensadvice.org.uk

-「Check your employment status」(雇用形態を確認する)
https://www.citizensadvice.org.uk/work/check-your-employment-status/

-「Employment Contract」(雇用契約書)
https://www.citizensadvice.org.uk/work/contracts-of-employment/


▶︎イギリスの政府機関「HSE(Health and Safety Executive)」
https://www.hse.gov.uk/index.htm

-「Have the right workplace facilities」(職場に適切な福利施設を備えること)
https://www.hse.gov.uk/simple-health-safety/workplace-facilities/index.htm

-「The law on workplace safety」(職場の安全に関する法律)
https://www.hse.gov.uk/workplace-health/law.htm


▶︎*法令原文: Workplace (Health, Safety and Welfare) Regulations 1992
https://www.legislation.gov.uk/uksi/1992/
3004/contents/made



その他の参考WEBサイト

▶︎Acas(Advisory, Conciliation and Arbitration Service)
https://www.acas.org.uk/
役割:政府支援の公的機関として、雇用主と労働者のトラブルを未然に防ぎ、解決を支援する
主な活動:労働法や雇用慣行に関するガイドを提供するほか、雇用契約や職場の問題に関する相談窓口、調停サービスなども行っている
特徴:中立的で実務的なアドバイスが得られる

▶︎GOV.UK(英国政府公式サイト)
https://www.gov.uk/
役割:英国政府の公式情報ポータルとして、国民や企業に法的・行政的な情報を提供する
主な活動:雇用ステータスに応じた権利・義務、法律に基づいた制度の説明を掲載
特徴:信頼性が高く、公式な根拠として使える




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掲載日:2025年09月11日
※2025年9月に内容を一部更新しました(Citizens Adviceの地域別情報を追記しました)。




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